multi pass by

県境にあるダム湖の傍に佇んでいるイメージを、回転するスチール椅子の上で抱いている。あるいは、そのふりをしている。複数のパイプが無秩序に並んでいる。バルブを閉めているはずの手が、我知らず逆さまに動くので、鏡のやっかいにならなくてはいけない。中を流れるのは、淡い塩水かあるいは、高圧の気体なのかは、知るところではない。いづれにせよ、周りの薄暗さは安堵と清栄を引き起こし、同時に明度と彩度への憧れを掻き立てる。猫よりも小さく針金のような人間が、陽炎のように動き回るので、バナナをちぎって投げてやった。器用にもそれを口に運んで嬉しそうにしている。それより後のことは、強い光のせいで覚えていない、それ以前のことも、闇の中で。